私達「創作表現規制に反対する10代の会」は、様々な創作表現を楽しむ青少年の立場から、現在「青少年保護」などを名目に行われている表現規制に対して意見や疑問を呈し、青少年と表現の自由を当事者の立場から擁護する団体として、松岡海斗を代表に2019年3月に結成されました。

当会は、国連子どもの権利委員会(Committee on the Rights of the Child)が策定した、『児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書』のガイドライン草案パラグラフ61~64に対し、実際に創作表現や諸問題に向き合っている青少年の立場から、ガイドラインの見直しを要請するようパブリックコメントを作成し、松岡海斗代表より2019年3月30日に提出しました。

以下はパブリックコメントの文面です。
英語版


日本語訳

【はじめに】
私達は「創作表現規制に反対する10代の会」といいます。
私達の会は、子どもの権利条約の当事者である10代の若者が中心になって集まった会です。
私達は、『児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の履行におけるガイドライン草案』に対して議論を重ね、子どもの権利条約第3条に基づき、このパブリックコメントを送ることにしました。

【意見要旨】
私達はガイドライン草案にある、パラグラフ61から64、68、パラグラフ62の「存在しない児童」の削除を要求します。
非実在児童の性的描写を、児童ポルノとして法律で禁止するこれらの条文には、合理的な根拠がありません。世界人権宣言第19条に明記された表現の自由という、極めて重要な基本的人権への侵害になります。また非実在児童の性的描写を法律で禁止すると、逆に児童の人権が侵害され、その結果児童の性的搾取の問題の解決を困難にします。


【私達がガイドライン草案のパラグラフ61から64、68、パラグラフ62の「存在しない児童」の削除を求める理由】
[理由1]
非実在児童の性表現を法律で禁止することは、合憲性や合理性を欠き、表現の自由を含めた個人の人権を侵害します。
[理由2]
非実在児童の性表現を法律で禁止することは、児童の性的搾取や児童への性犯罪とは無関係なクリエイターやファンを畏縮させ、漫画やアニメ、映画、絵画、彫刻などの全ての芸術文化の健全な発展を阻害します。これは私達児童を含めた人類全体の幸福に反します。
[理由3]
各国、各地域の文化的多様性に敬意を払っておらず、差別的です。そして児童の人権を侵害します


[理由1の説明]
スウェーデン最高裁の判例では「非実在児童を描いたポルノを犯罪とすることは、自由な意見形成に対する脅威と言えるほど、表現の自由及び情報の自由に対する制限となる。したがって非実在児童を描いた漫画やイラストの所持は、児童ポルノ犯罪として処罰できない」と述べています。
また日本の最高裁は、表現の自由を規制(発表や販売、頒布、所持などの禁止)をするには、『明白かつ現在の危機』の基準を全て満たす必要があると判例で定めています。
『明白かつ現在の危機』の基準とは、
①近い将来、実際に害悪が起きる確実性が明白であること
②実際に起きる害悪が重大であること
③害悪を避けるのに、規制が必要不可欠であること、の3点です。
日本の最高裁判決は以下のように述べています。
「憲法上、表現の自由の規制を正当化するには、人の生命や財産などに対して危険な事態が発生する場合に限定される。それは単に可能性があるというだけでは不足である。個別の事例で明らかに差し迫った危険の発生が、具体的に予見されることが必要」
しかしパラグラフ63には「その様な描写は児童を性の対象として見ることを正常化することに貢献し、児童性的虐待物の需要を刺激する」とあるだけです。

現在の犯罪心理学では、性犯罪や性的虐待は、性欲ではなく支配欲が原因である、という考え方が一般的です。
2012年7月、デンマーク国司法省が、コペンハーゲン大学病院に所属する研究機関の調査結果として、「漫画やアニメなどの非実在児童を描いたポルノが、児童の性的虐待と関連しているという科学的根拠は無い」と発表しました。
また非実在児童を描いたポルノが存在しないカトリック教会で、聖職者達の児童への性虐待事件が続発し、世界中で問題となっています。
さらに日本の警察庁は、2019年の報告書『平成30年における児童の性被害の状況』で、児童ポルノ犯罪の多くはSNSが原因だと発表しています。
これらの事実は、非実在児童を描いたポルノが、児童の性虐待の原因ではないことを証明しています。
非実在児童の性的描写を法律で禁止しても、実在する児童の保護には全く効果がありません。

パラグラフ63の理由は、『明白かつ現在の危機』の基準を全く満たしていません。
国連が曖昧な可能性や道徳に基づいて、特定の思想や表現を法律で禁止するのは、世界人権宣言第19条に反します。
日本の児童ポルノ禁止法の第3条には、「学術研究、文化芸術活動、報道に関する国民の権利と自由を尊重し、児童保護という目的に反してこの法律を運用してはならない。」と書いてます。
私達は児童保護という緊急課題の論議でも、基本的人権の尊重という原則を忘れてはいけないと考えます。
表現の自由は基本的人権の中でも、自由民主主義の根幹ともいえる権利であり、立法において最大限の尊重と配慮が求められます。
スウェーデン最高裁の判例や上記事実が示すとおり、ガイドライン草案のパラグラフ61から64、68は満たすべき合憲性や合理性を欠いています。


[理由2の説明]
パラグラフ62やパラグラフ63の「外見上児童に見える」「写実的」「実質的」の定義が曖昧で不明です。特に日本の漫画やアニメは、頭身が低く、目が大きめに描かれる画風が特徴です。大人を描いても児童と判断される事が多くあります。例えば日本を代表し、世界的にも著名な漫画家である手塚治虫や、藤子不二雄、鳥山明などの絵は特にそうです。法律で禁止されると、日本のアニメ、漫画という表現手段を用いる人々は、自分の権利を制限され、自己検閲を強いられます。
スウェーデン最高裁は次のように述べています。
「表現の自由は民主主義社会の基礎である。表現の自由に関する例外の可能性は、狭義で解釈されなければならず、また法律による禁止の必要性は、説得的な形で報告されなければならない。」
「児童を性的行為に誘惑する危険を避けたいという根拠は、法律による禁止を正当化しない。漫画は日本の文化に深く定着しており、その背景を鑑み、表現の自由を可能な限り重視しなければならない」
法律の曖昧な条文が権力の濫用を招き、国民の権利を抑圧してきた歴史を、私達は思い出さなくてはいけません。表現の是非を司法で判断しろいう考えは、逮捕され裁判を受けるクリエイターのことを考えていない暴論です。芸術を含めた多様な文化において、児童を表現することを畏縮してしまう社会では、児童の保護などは実現できません。


[理由3の説明]
日本のアニメや漫画は性別や年齢を問わず、日本や世界中で多くの人に愛され、児童達を魅了してきました。日本の漫画やアニメは、様々な葛藤を抱える10代の若者を描くことで、芸術として完成し、文化になっています。特に性的問題は重要なテーマです。
例えば『風と木の詩』(竹宮恵子作)や『DEEP LOVE』(yoshi作 吉井ユウ画)は、児童の性的虐待を描いています。これらの作品は10代の若者に幅広く支持されました。『風と木の詩』には、9歳の少年が性的虐待を受ける描写があります。竹宮恵子はBBCのインタビューに対して「現実に児童の性的虐待は起きる。隠しても無くならない。それを認めながらも、暴力を受けた少年達の力強さを描きたかった。性的虐待を受けても、乗り越えていく人がいることを知ってほしかった」と、説明しました。竹宮恵子は、父親に強姦されたことがあるという読者の手紙を受け取りました。その手紙には竹宮の作品が自分を救ってくれたと書いていました。

私達10代の若者はこうした漫画を読むことで、自分の性的問題について考えます。
もし非実在児童による性的描写や性的虐待の描写が法律で禁止されると、こうした漫画の多くが発表や販売、所持が禁じられ、私達は自分の性的問題を考える機会を奪われます。
またこうした漫画を所持しているだけで、10代の若者が逮捕され、投獄されます。実際に韓国ではそれが起きました。
この児童への人権侵害は、非実在児童による性的描写や性的虐待を描いた漫画やアニメを禁止した法律が原因です。

宗教がそうであるように、ある社会の価値観は別の社会の価値観とは、必ずしも適合しません。
特定の価値観を、無理に社会全体の基準にしてしまうと、価値観の不一致による軋轢が社会に生じます。
国連の権力で、特定の道徳的価値観を条約として各国に強要するのは、文化の多様性を無視した、極めて差別的かつ反民主主義的姿勢です。
2001年に開催された『第2回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議』での、「子どもと若者の最終アピール」では、「文化的・政治的・経済的多様性とともに、一人一人の違いも考慮にいれるべきです。」というアピールが採択されました。
今こそこれをもう一度思い出して下さい。
私達のグループには未来の漫画家や小説家がいます。10代の漫画やアニメのファンがいます。日本では多くの悩みを抱える10代の若者が、漫画やアニメなどを見て勇気づけられました。
どうか私達児童から、あるいは未来の児童から、児童保護という理由で、憲法に保障された表現の自由を奪わないで下さい。


【結論】
以上の理由から、私達はガイドライン草案パラグラフ61から64、68、パラグラフ62の「存在しない児童」の削除を要求します。
私達は国連子どもの人権委員会の委員諸氏の良心を信じるものです。しかし人間は良心を持っていても、結果として人々を不幸にすることがあります。
私達は国連子どもの人権委員諸氏がこのパブリックコメントを読み、ガイドライン草案から、パラグラフ61から64、68、パラグラフ62の「存在しない児童」を削除してくれることを信じます。


2019年3月30日
創作表現規制に反対する10代の会 松岡海斗

メンバー
松岡 海斗 19歳 大学生
Juan.B 25歳 小説家
伊東 圭右 19歳 大学生
流川 智玄  14歳 中学生
三村 修一 17歳 高校生
その他